空前の訪日消費に沸く日本。一過性の特需と捉えるのはもったいない。持続的な成長につなげるために奮闘する企業の取り組みを追う。

■主な連載予定(タイトルや回数は変わる可能性があります)
訪日消費15兆円は日本を救う 「爆買い」後の新潮流
4950円で「トイレツアー」 日本通のリピーターが切り開く新観光資源
アサヒビール、訪日客に想定外の「生ジョッキ缶人気」で海外発信を強化
箱根の高級旅館、副業で訪日客需要に対応 人手不足で発想の転換
外国人が頭にネクタイ スナックツアー、日本の夜間経済を活性化
4000円ラーメンが訪日客に人気 「並ばなくていい」権利付与で売り上げ3割増
みそ煮込みうどんをハラル対応、訪日客向け料理開発 海外進出の糧に
JTB、地方重視で300のツアー開発 訪日客向け四国お遍路巡りも
・工業刃物メーカーの消費者用包丁が大ヒット 訪日客が火付け役(今回)

 訪日客が急増する現状は、日本にいながら国際化を進められる好機だ。インバウンド(訪日外国人)を分析して新製品を開発し、ブランドも発信できる。訪日客に人気の製品やサービスを、海外に展開する企業も出てきた。

海外客に人気の刃物に注目

 乾坤一擲(けんこんいってき)の新製品をつくる際にインバウンドを意識したのが、工業用機械刃物メーカーの福田刃物工業(岐阜県関市)だ。「新規事業の立ち上げ段階から、世界の人に売ることを意識していた」。同社の福田恵介・技術部長はこう語る。

 同社は2022年、長年培ってきた工業用刃物の技術力を生かし、超硬合金と呼ばれ「ダイヤモンドの次に硬い」とされる素材を利用した包丁の開発に成功。およそ2年の開発期間を経て完成させた。

 製品名は「KISEKI:(キセキ)」で、販売価格は3万円前後だ。

 22年、クラウドファンディングでキセキの販売を始めたところ、開始から5日間で1450本を完売。23年に一般販売を開始し、プロの料理人の間でも「よく切れる」と話題を呼んだ。1日に製造する本数が限られ、需要に対して供給が追いつかない状態が続いている。

 福田氏は工作機メーカーのエンジニアだったが、1999年に父の経営する福田刃物工業に入社し、現在は兄が経営する同社の幹部になった。

 同社は2008年のリーマン・ショック後、工業用刃物から半導体製造装置向け部品の製造を増やすなど、事業を多角化してきた。だが福田氏は自社の認知度の低さに課題を感じていた。

「開発当初からインバウンドを意識していた」と語る福田恵介氏。日本貿易振興機構(ジェトロ)にも相談に行った
「開発当初からインバウンドを意識していた」と語る福田恵介氏。日本貿易振興機構(ジェトロ)にも相談に行った

 「新しいことをしなければ、会社はじり貧になるだろう」。そう考えた福田氏は、消費者向け商品の製造を思いつく。

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