2023年3月期の有価証券報告書から人的資本の情報開示が上場企業を対象に義務化されて1年が過ぎた。開示対応が進んでいる一方で、内容の一貫性や具体性に欠けるなどまだまだ課題も多い。

 人的資本経営は上場企業に限らず企業価値向上において重要なテーマだが、中小企業やスタートアップ企業の人事担当者は情報開示まで取り組む余裕がないというのが実情だ。

リポート開示で内部体制強化に効果

 一方、将来的に上場を見据えるスタートアップ企業が上場企業に劣らず積極的に取り組む事例も出てきている。

 日本円と連動するステーブルコイン「JPYC」を発行するフィンテックスタートアップのJPYC(東京・千代田)は22年5月、新規株式公開(IPO)を目指すうえで信頼性や透明性を示すべく36ページにわたる本格的な人的資本リポートを開示した。

 人的資本経営の分析は、ESG情報開示の国際的な枠組みや人的資本開示に関する国際標準ガイドライン「ISO30414」などを参照した。さらに、人的資本経営を実現する適性検査「CHART series(チャートシリーズ)」などを運営する一般社団法人人間能力開発機構による「人的資本経営認証」も受けている。

 開示した当時は創業から約3年で、総従業員数は60人程度だ。経営年数や人材も少ない中、同社がリポート開示に取り組んだきっかけは、資金移動業や電子決済手段のライセンス取得に向けた内部体制の強化だった。

 岡部典孝代表は、JPYCがフィンテックベンチャーから金融機関へと変わろうとする時期が「組織成長の壁」だったと振り返る。創業から3年目の22年に、金融庁がステーブルコインの流通に関する制度改正案を発表し、スタートアップにも発行が認められたタイミングだ。

この記事は有料会員登録で続きをご覧いただけます
残り2129文字 / 全文2873文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

  • 専門記者によるオリジナルコンテンツが読み放題
  • 著名経営者や有識者による動画、ウェビナーが見放題
  • 日経ビジネス最新号12年分のバックナンバーが読み放題