(前回「事業の成功は「円満な人」をナンパするところから始まる」から読む)
ビジネスは「見える化」「類型化」で効率を上げるのが肝要、とよく言われる。それは事実だが、しかし商品や店の魅力を急速に失わせる原因でもある。
福岡・大名にある人気店「台所ようは」には2階に続く階段がある。その階段を上がった先には、1階とはガラリと様相が変わる「ミントバーHACCA(白化)」が。自分がプロデュースするものは、店でもイベントでも、全部違うものにしていく。ここは「ビジネスの類型を絶対に作らない」という大塚瞳さんの考え方が生み出した空間だ。
「台所ようは(第1回 経営モットーは健全・健康「台所ようは」は今日もにぎやか)」は仲のいい友人と家でご飯を食べるような雰囲気ですが、2階に上がると一気に大人の夜にジャンプします。「ミントバーHACCA(白化)」は、どういうお店でしょうか。
大塚瞳さん(以下、大塚):「ようは」の半年後にオープンしたバーです。最初から「ようは」では1階と2階はまったく違う場所にしようと考えていました。
というのは、ご飯を食べた後、ちょっと場所を変えて1杯となった時に、お店を探したりするのって、意外と手間でしょう。私自身、歩くことが面倒な人間なので(笑)、はしごしなくていいように、2階に次の場所を作ってしまえばいいと思ったんです。
「はしご」じゃなくて「階段」……。
和食の2階にモヒートバー
大塚:ここの2階でバーをやりたいという人は多かったのですが、普通の空間では面白くないので、ピンとくるアイデアが出るまで半年間寝かせていたんです。
暗い店内でピンクパープルのあやしい光を発しているボックスは何なのでしょうか。
大塚:ミントの水耕栽培装置です。ピンクパープルの光は、ミントの光合成をうながすライトで、赤と青のLEDが点灯しているので、このような色になるんですね。
この装置はミントバーのマスターを務める桐山栄治さんが見つけてきたもので、これを店に置けば文字通り、自家製フレッシュミントを使ったモヒートが作れるね、ということになり、バーを桐山さんにまかせることにしました。
都会のど真ん中で無農薬のミントを栽培することは、4000軒の農家めぐりをした大塚さんのストーリーと重なりますね。しかも、その収穫を可能にしているのが、最新のテクノロジーで、舞台が築50年の古民家。このインタビューでは大塚さんの飲食店や食イベントを概観してきましたが、すべてが違う発想、違う空間になっているんですね。
大塚:私はどの仕事でも、毎回どれだけ違うものを作っていけるか、ということをテーマにしているんです。
類型に堕(お)ちない、ということでしょうか。
大塚:パターン化すると、仕事も人生もつまらなくなると思っているんです。
尽きないアイデアの源泉はどこにあるのでしょうか。
大塚:食と空間に本格的に目覚めたのは、お話しした通り、大学に入った時でしたが、私の原点はアメリカで過ごした幼少期にあると思っています。私は3歳から7歳までを、カリフォルニア州のパロアルトで過ごしておりまして。
それはどういう経緯で?
大塚:内科医の父がリウマチを専門とする研究者でもあって、その頃スタンフォード大学で研究をしていたのです。大学にある中庭が妹と私の遊び場で、週末はサンフランシスコに足を伸ばし、ゴールデンゲートブリッジを渡ってチャイナタウンに行って、そこでハトに襲われたりしたことが思い出、みたいな(笑)。
スタンフォード大学の中庭が子ども時代の居場所だったんですか。
大塚:うちの母がすごく社交的な人で、同じくスタンフォードで研究をしている人たちの家族と、しょっちゅうポットラックパーティーを開いていました。
ポットラックパーティー?
大塚:気楽な持ち寄りパーティーのことで、アメリカンな料理はもちろん、台湾から来ているファミリーのお母さんからは、台湾料理を教えてもらったりと、とにかく日常がカラフルだったことは、よく覚えています。
私が通っていた幼稚園は、中国人、ロシア人、日本人とバックグラウンドも様々。人種だけでなく、ハンディキャップを持っている子も一緒で、イッツ・ア・スモールワールドみたいなところだったんです。
そこでのハンディキャップについての考え方は、「〇〇ちゃんは右手が不自由なので、右手の代わりをやってあげてね。でも、左手の代わりはしなくていいから」というもので、ヘンなあわれみとか偽善とかはない。私は毎朝、仲良しの男の子にハグされて「今日もかわいいね」という言葉から一日が始まっていました。
「理想のおうちを作ってみよう」
……それ、幼稚園児の話ですか?
大塚:そう、日本の小学校に帰ってきたら、そういう挨拶がまるでなくて「あれ、ないの?」って、拍子抜けして(笑)。
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