開校6年目。2024年度にようやく1~6年生がそろった新興の私立小学校が、名門校がそろう小学校受験の世界で大躍進を遂げている。

 東京・世田谷に19年に開校した私立東京農業大学稲花(とうか)小学校(東農大稲花小)だ。東京23区内で59年ぶりに新設された私立小学校だが、驚くのはそれだけではない。24年度入試の志願者数は879人。募集枠72人に対して、12倍もの応募があったのだ。開校以来、志願倍率は10倍を下回ったことはない。

 この数字がどれだけすごいかを裏付けるデータがある。

 受験情報サイトを運営するバレクセル(東京・渋谷)によると、23年度の首都圏私立小の志願者倍率ランキング(男女合計編)で、東農大稲花小は11.1倍で3位だった。慶応義塾横浜初等部(横浜市)、東洋英和女学院小学部(東京・港)には及ばなかったものの、私立小の代名詞とも言える慶応義塾幼稚舎(東京・渋谷)を上回った。歴史も伝統もある名門校に引けを取らない人気となっている。

 東農大稲花小の大躍進を支えているのが、世帯年収1500万円以上の「パワーファミリー」を含む、共働きの現役世代だ。

 前回の記事(小田原にパワーファミリー続々移住 主な支出は「教育・趣味・旅行」)で見たように、パワーファミリーの多くは良質な教育を受けてキャリアを築いてきたことから、「子供にも同じような教育を受けさせたい」との思いが強い。

 野村総合研究所の調査によると、「子どもの教育・学習関連」に積極的にお金を使いたい人は31%で、全世帯平均よりも10ポイント高かった。特に首都圏では中学校受験が過熱していることもあり、小学校から私立に通わせたいと考えている親は増えている。

 だが、子供の学力以上にハードルとなっているのが両親が共働きであることだ。「多くの私立小は保守的。平日に親が参加する行事を組むなど、いまだに専業主婦の存在を前提にしている」とあるパワーファミリーの母親は不満を漏らす。

 これに対して、東農大稲花小は共働きの家族に徹底的に寄り添う。

■本連載のラインアップ(予定)
年収1500万円の共働き世帯、10年で倍増 ワークマン・ライフ攻略へ
小田原にパワーファミリー続々移住 主な支出は「教育・趣味・旅行」
・お受験で下克上 6年目の稲花小、手厚い学童で慶応幼稚舎しのぐ人気(今回)
・マネックス・SBI、パワーファミリー開拓 「NISAに月10万円以上」が3割
・パワーファミリーの家計のぞき見「月収110万円で4割貯蓄、家事代行活用」
・109シネマズ、新宿に高級ホテル顔負けの映画館 6500円で夜景も楽しむ
・BMW、MINI購入者の教育熱くすぐり囲い込む クレカ優待で子供の留学支援
・クラブメッド北海道、「リゾート内に託児所」で人気 英語の勉強にも

保護者への連絡はオンライン

 まずは徹底したオンライン化だ。保護者への連絡はほぼオンラインで完結し、ペーパーレスを意識している。学校からの連絡はもちろん、子供が風邪で休む時の連絡などもオンラインで済ますことができる。さらに入試の面接や授業参観も、オンラインと対面を使い分けている。

 夏秋啓子校長は「ほとんどの家庭はインターネット環境が整っているため、オンライン化による大きな問題は今のところ起こっていない」と話す。オンライン化の徹底は、パワーファミリーが多い私立校だからこそできる強みと言える。

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