BtoBマーケティング大賞2024 第3回

「日経クロストレンド BtoBマーケティング大賞2024」で「ストラテジー部門賞」を受賞したのは、NTTコミュニケーションズ(以下、NTTコム)だ。2022年1月、NTTコム、NTTコムウェアはNTTドコモの傘下に入り、3社を統合した新生ドコモグループがスタートした。それに伴い、3社の法人向け事業はすべてNTTコムに集約。同年7月から「5つのマーケティング戦略」に着手した。2年間で100回以上、様々な関連の幹部と議論を重ねるなど、地道に活動を推進してきたマーケティング部門の担当者が戦略の全容と成果を明かす。

5つのマーケティング戦略のかじ取り役として、BtoB(企業間取引)マーケティングを推進してきた3人。左から、ビジネスソリューション本部事業推進部マーケティング部門担当課長の矢三由佳理氏、同部門長の戸松正剛氏、同担当部長の辻本和也氏
5つのマーケティング戦略のかじ取り役として、BtoB(企業間取引)マーケティングを推進してきた3人。左から、ビジネスソリューション本部事業推進部マーケティング部門担当課長の矢三由佳理氏、同部門長の戸松正剛氏、同担当部長の辻本和也氏

 2022年1月にスタートした新生ドコモグループは、NTTドコモ(東京・千代田)の傘下にNTTコミュニケーションズ(東京・千代田、以下、NTTコム)とNTTコムウェア(東京・港)が入る形となっている。

 だが、同グループの法人事業に焦点を合わせると、違った景色が見えてくる。3社で法人事業を行っていた部門は、すべてNTTコムに集約。3社のエンタープライズ(大企業層)向け法人事業も統合し、同社が中心となって推進する組織形態に再編されたからだ。

この記事の流れ
  • 大企業層の法人営業はどこを注力領域にすべきか
  • LoB層と事業共創する仕組みをつくる
  • デジタルマーケティングで新規開拓も
  • 統合情報システムで営業を強化
  • BtoBマーケの最適解を目指す

大企業層の法人営業はどこを注力領域にすべきか

 そうした中で浮上したのが、事業統合後に生じるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション、統合プロセス)の問題だ。NTTコムのビジネスソリューション本部事業推進部マーケティング部門長の戸松正剛氏は、次のように振り返る。

 「NTTグループの中でも全く文化が異なる3社の幹部や社員が、同じエンタープライズの顧客に一緒になって向き合うことになる。その場合、顧客からどう見えるのか、すなわち、どんなCX(顧客価値)を提供する会社になったのかを整理し、それを着実に実務へ落とし込んで顧客に伝えていかなければならない。その方向感や戦略を定めるため、約2年前の22年7月から取り組みを始めた」

 その過程で見えてきたのが、5つの事業課題と、それに対する5つのマーケティング戦略だ。

 既存顧客の深耕と新規顧客の開拓を目的として取り組んだ結果、既存の事業領域における23年度の新規受注額は前年比16%増を記録。また、既存契約企業に対する受注額は前年比15%増に達するなど、様々な成果を上げている。

5つの事業課題と、それに対する5つのマーケティング戦略
5つの事業課題と、それに対する5つのマーケティング戦略

 この成果は、どのようにして生み出されたのか。順を追って見ていこう。

 1.中長期成長戦略の基礎となる統合マーケティングボード/リサーチ 

 まず、1つ目の課題が、統合したエンタープライズ向け法人事業でどこを注力領域にするかだ。

 従来、NTTコムはICT(情報通信技術)のインフラを中心とした基盤ビジネス、NTTドコモはモバイルソリューション、NTTコムウェアはソフトウエア開発を提供し、強みや事業領域がはっきりしていた。だが、それらが統合されることで、外形的に何を提供する会社なのか、どこが注力領域で、中長期戦略的に価値が出せる分野なのかが分かりづらくなっていた。

 「価値をしっかり定め、社外に伝えるとともに、グループ内でもコミットし、3社の幹部(本部長、組織長)が同床異夢にならないような仕組みづくりが必要だった」(戸松氏)

 企業によっては、CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)やCRO(チーフ・レベニュー・オフィサー)が中心となり、注力領域などを含む中長期の成長ポートフォリオ戦略を策定する場合もある。だが、日本ではそうした役職を置いていない会社もあり、NTTコムも設けていない企業の一つだ。

 では、代わりにどのようにマネジメントクラスが、次の投資先や注力領域を定めていくのか。同社では、それを属人的ではなく、プロセスの中で決められるように仕組みをつくった。

 それが、「統合マーケティングボード」と「リサーチ」をセットにしたマーケティング戦略だ。

統合マーケティングボードのプロセス(左)と、マトリクス化した中長期の成長ポートフォリオ戦略(右)
統合マーケティングボードのプロセス(左)と、マトリクス化した中長期の成長ポートフォリオ戦略(右)

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