マーケティングサイエンティストでコレクシア(東京・中野)執行役員の芹澤連氏が、海外の実証研究や論文などに基づきながらマーケティングの真実に迫る特集。前回に引き続きトライバルメディアハウス(東京・中央)の池田紀行氏との対談の後編をお届けする。芹澤氏の書いた『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』(日経BP)を“劇薬”と評した池田氏の真意とは何か。マーケティングのあるべき姿やマーケターの目指すべき方向性を示唆する刺激的な対談となった。
ブランドではなくカテゴリーやコホートで場合分け
芹澤連氏(以下、芹澤) 前回は、従来のマーケティング理論と対比する中で、エビデンスベーストマーケティングを理解していくのがよいのではないか、という話をしてきました。
一方で、最近は「エビデンスをどう現場に生かしていくのか」、つまりどのようにして各実務に落とし込んでいけばよいのかという相談も増えています。
当然、ダブルジョパディの法則だけ知っていても、顧客価値を生み出すことはできません。そもそもエビデンスをすぐに自分事として考えられるのは、『ブランディングの科学』(朝日新聞出版)や『戦略ごっこ』を何度も読み返しているような一部の人だけだと思います。
池田紀行氏(以下、池田) 『戦略ごっこ』は相当高度な本ですからね。
芹澤 いくつもの実証研究を取り上げていますが、全てを覚える必要はありません。エビデンス思考の取っ掛かりとしては、まず「自社が属するカテゴリー」において有用な傾向をピックアップすればよいと思います。
『戦略ごっこ』に関しては「新規獲得 vs. ロイヤルティ」という文脈で取り上げられることが多いですが、フォーカスはそこだけではありません。広告系のエビデンス、商品開発系のエビデンス、値づけに関するエビデンスなど、実践的な各論もたくさん紹介しています。そこは強調したい。
池田 なるほど。
トライバルメディアハウス 代表取締役社長
芹澤 エビデンスをマーケティングに生かすには「規則性と例外」をセットで理解していくことがポイントです。「ここまでは当てはまるが、ここからは当てはまらない」という見極めがエビデンス思考の本質であり、多くの場合、その線引きとなるのが「カテゴリー」です。
例えば「このカテゴリーの商品やサービスの場合、大抵こういうふうに買われる、逆にこのような買われ方はほとんどしない」といった具合ですね。前回の記事で関与度の高低について話しましたが、これもカテゴリーごとに決まってくることが多いようです。
もう一つは、以前こちらの対談にも登場していただいた、ニューバランスジャパンの鈴木健ディレクターがおっしゃっていた「コホート(集団)」ですね。いずれにしても、自分や自社のゴールにとって意味のある“単位”や“くくり”に置き換えて理解すればよいと思います。
▼関連記事 ブランド戦略を「カテゴリー」から考える理由は? ニューバランスの視点池田 ブランドワイズの話ではなく、カテゴリーワイズやコホートワイズの話に転換するわけですね。
芹澤 そうです。エビデンス思考について、最近は次のような説明をしています。
- 市場や消費者行動には“海流”のような大きな流れ(規則性)がある
- 海流に逆らって泳いでも、早く泳げないし遠くまでは行けない
- しかし、海岸から海を眺めていてもそのような流れに気づくことはできない
- ブイなどを浮かべ、ある程度広範囲のデータを取ってみて、初めてそうした大きな流れがあることに気づく
ここで言うところの“海流”の向きや場所、強さなどが、カテゴリーによって変わってきます。これは定数です。ゲームチェンジャー的なイノベーションでもない限り、各ブランドのマーケティングで変えられることではありません。従って、あくまでカテゴリーやドメインの理解が先、ブランドワイズの戦略や施策は後です。
『戦略ごっこ』を妄信してもいけない
池田 25年前からマーケティングに携わってきましたから、昔はフィリップ・コトラーやマイケル・ポーター、ピーター・ドラッカーの理論を熱心に学びました。彼らのマーケティング論を頭にたたき込んで、現場での実践に移してきました。そんな人間からすると、芹澤さんの『戦略ごっこ』は彼らの理論をちゃんと学び、実践もした上で、ひっくり返しているということが分かります。
芹澤 そうですね。
池田 逆に言えば、コトラーやポーター、ドラッカーの理論を学んでいない人たちには、この『戦略ごっこ』が一体何を断じているのか、何を否定しているのか、理解しようがないと思っています。ですから『戦略ごっこ』は、ポーター、ドラッカー、コトラーをちゃんと理解している人間が読んで初めて「なるほどな」と納得できるのではないでしょうか。
芹澤 それはよく言われます。(笑)
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書名:『戦略ごっこ―マーケティング以前の問題』(日経BP)
著者:芹澤 連
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