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 企業の不祥事は後を絶たない。国内ではガバナンス機運が高まり大企業を中心に整備されてきたが、結果、取り残されているのがベンチャー企業・未上場企業である。さらに、人工知能(AI)はガバナンスに大きな影響を与えるという。ベンチャー企業のコーポレートガバナンスについて経営者自身がまとめた書籍『AI時代のベンチャーガバナンス』(日経BP)を基に、主にAIがガバナンスに与える影響について連載する。今回のテーマは「企業経営へのAI活用」である。

 企業の規模や上場/未上場にかかわらず、AIは企業経営に多様なメリットをもたらします。従来型AIだけでなく生成AIも活用し、その範囲は広がっています()。AIは個々の業務改善や事業への貢献のみでなく、課題対応も含めてガバナンス改善に寄与するのです。

図 AIの機能とメリット、課題、ガバナンス改善
図 AIの機能とメリット、課題、ガバナンス改善
(出所:書籍『AI時代のベンチャーガバナンス』)
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 生成AIをはじめとした新たな技術は事業やリスク管理など企業経営に大きな影響を与えるため、その導入を検討して実施することは、現代において取締役会の義務といっても過言ではないかもしれません。競合他社が事業にAIを導入することにより競争で劣勢となることや、競合他社がリスク管理に導入することで内部統制に後れを取り、不祥事発生時に十分なリスク管理が行われていなかったと解されることも考えられます。

AIが生む新たなリスクも

 一方で、AIの導入によって新たなリスクが生じ、それが不祥事につながることもあり得ます。そのため、自社におけるAI導入によるメリット/デメリットを評価し、それが業務や事業のみでなく、ガバナンスに与える影響を検討する必要があります。

 特にベンチャー企業の視点で見た場合、生成AIは少ないリソースでの業務実施、新たなビジネスモデル構築、新領域への展開といった点で、適合性が高いといえます。ガバナンスの視点でも、攻めのガバナンス、不祥事や不正の早期発見や再発予防などのメリットがあります。

 自社業務への利用として、AIは自動化による生産性向上、従業員の負担軽減、コスト削減を可能とし、ロボットなどとの併用を含め、既に多くの業務やプロセスで利用されていますが、導入コストが高く、一部雇用の喪失や代替が起こるという課題もあります。

 また、大量のデータを蓄積して活用することで予測が可能になり、顧客ニーズの把握と対応が可能になるメリットがあり、市場・事業環境の予測、データに基づく顧客エクスペリエンスの向上、個人に合わせたマーケティングなどに利用されつつあります。一般的でないデータを活用したり、独自のデータ解析を行ったりすることで、企業は競争優位を獲得でき、自社および事業環境に関わるリスク管理を行うことも可能になります。

 ただ、利用する個人のプライバシーや個人情報保護、データ不足や予測精度の問題、利用する人材やスキルの不足から、思わぬ誤りや予期しない結果になってしまうこともあり得ます。