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 米Broadcom(ブロードコム)による米VMware(ヴイエムウェア)買収によってユーザー企業が被った悪影響は、製品の値上げだけではなかった。ライセンス更新に必要な見積もりが遅延したり、製品のアクティベーション(有効化)ができなくなったりするなど、ユーザー企業が様々な困難に直面している。

(撮影:日経クロステック)
(撮影:日経クロステック)
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届かない見積もり、保守切れのまま運用へ

 「見積もりが全く届かない。早くどうにかしてほしい」――。

 悲痛な声を寄せるのは、自社のプライベートクラウドでVMware製品を使うあるユーザー企業A社の担当者だ。A社は自社のプライベートクラウド基盤にVMware製品を使い、複数の業務システムを動かしている。2024年5月末に使用するVMware製品の保守期限が終了する予定だったことから、2024年2月末に保守更新の見積もりをリセラーに依頼したが、2024年6月18日時点でも正式な見積もりの提示がないという。

 「リセラーからは価格が大幅に上がることや、ブロードコムの見積もりサイトが混雑していて処理が進まないという報告はあったが、当社はすでに保守切れのまま運用している状態。経営層からはIT部門に厳しい目が向けられており、早くどうにかしてほしい」。A社の担当者はそう嘆く。

 別の企業も同様の声を寄せる。自社のプライベートクラウドにVMware製品を使い、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)を手掛けるB社も、見積もりが届かず保守を更新できない事態に見舞われた。2024年6月末に一部のVMware製品の保守期限が切れる予定だが、2024年6月17日時点でリセラーから見積もりの提示がないという。B社の担当者が見積もりを依頼したのは2024年2月上旬のことである。

 2024年4月末に保守期限が終了した一部の製品については、かろうじて2024年3月末に見積もりが出たという。提示された価格は前年度の1.7倍。10倍以上の値上げとなるユーザーもいる中で値上げ幅は限定的であるが、「これはあくまでVMware製品のライセンス変更に伴う一時的なリセラー価格」(B社の担当者)であり、コストはリセラーが被っているのだという。「『次回はこの値段では出せない』と言われており、今から気が重い。他のハイパーバイザーへ移行すべく、先週から製品ベンダーとの打ち合わせを始めたところだ」(B社の担当者)と話す。

 この他にも「VMware製品の担当営業が突如消え(退職し)、見積もりが届かない」「VMware製品のOEMベンダーから一方的に保守契約の打ち切りを告げられた」「ヴイエムウェアの日本法人にも情報が下りておらず、見積もりを出せないと言われた」「ヴイエムウェアの営業が社内システムを利用できず、値上げに関する情報が5月になっても伝えられなかった」「取得していた見積もりが強制的に破棄された」などの声が日経クロステックに寄せられている。

 一体、ブロードコムに何が起きているのか。日経クロステック編集部はブロードコムの日本側の広報窓口に事実関係を確認し続けているが、返答は得られていない。一方で米本社は2024年6月12日(米国時間)、公式ブログに「Strengthening partners to better serve our customers(パートナーを強化し顧客により良いサービスを提供する)」と題するエントリーを投稿し、同社の業務システムで5月上旬から混乱が発生していたことを明らかにしている。