「しなければ」と思って続けてきたこと、「いつかやめたい」と思いながらもやめられずにいたこと……。いつの間にか自分を縛るようになっていた長年の習慣や価値観を思い切って手放すと、その先にはどんな世界が待っているでしょうか? 前を向いて歩み続けるために「やめる」選択をした人たちのビフォー&アフターに迫ります。

 「お酒をやめて、できることがとても増えた」。そう話すのは、首都圏の中小企業で経理代行の仕事に就くコジマ・コリーさん(44歳)だ。40歳のときに、はやり始めていた「ソバーキュリアス」(お酒を飲める人が、あえてお酒を飲まないライフスタイルを選択すること)を実行。晩酌しなくなった分、時間とお金が浮き、人生ががらりと変わったと話す。学びの時間が増え、仕事の効率がアップして、なんと給与もアップしたそうだ。そんなコジマさんのソバーキュリアス体験を詳しく聞いた。

コジマ・コリーさん。お酒をやめる前から学ぶことは好きだったそう。「仕事に必要ないのに簿記を1級まで取得してしまいました。好奇心から税理士試験も受けて、2科目合格済みです」
コジマ・コリーさん。お酒をやめる前から学ぶことは好きだったそう。「仕事に必要ないのに簿記を1級まで取得してしまいました。好奇心から税理士試験も受けて、2科目合格済みです」

ソバーキュリアスはカッコいい、と気軽にスタート

 コジマ・コリーさんがお酒をやめたのは40歳のとき。「ソバーキュリアス」という言葉を知ったのがきっかけだった。もともと20代の頃からお酒が好きで、毎晩350ミリリットルの缶ビールを2本飲むのが楽しみだったというコジマさん。「飲むとストレスが解消できるし、飲み会ではすぐに人と仲良くなれる。いろいろなメリットを感じていた」と話す。

 一方で、風邪気味の日にもつい飲んでしまい、「依存症かも」と自身の飲酒習慣に不安もあったそうだ。それでも断酒や減酒という言葉に「おじさんぽい」イメージを抱いていて、する気にはならなかった。

 「そんなときソバーキュリアスという言葉を知りました。言葉の響きがカッコよくて、そんな自分になってみたい。ちょっと試したくなりました」

 そんな気軽な気持ちからお酒を飲まない生活に挑戦したコジマさん。そのステップは以下の通りだ。

(1)晩酌のビールをノンアルコール飲料に置き換える
(2)炭酸水に置き換える
(3)夜9時に寝るようになり、晩酌の時間自体がなくなる

 「初めは、お酒を我慢してノンアル飲料を飲みました。でも、ノンアル飲料は味もパッケージもお酒っぽく作ってあるので、どうしても本当のお酒を思い出し、飲みたくなってしまいます。これではやめられないと思い、早い時期に炭酸水に置き換えました。その後は子どもを寝かしつける夜9時ごろ寝るようにしたので、晩酌の時間そのものがなくなりました。

 それでもお酒を飲みたいという気持ちはなかなか消えず、半年くらいたっても、唐揚げを見ると反射的にビールがほしくなっていました。『パブロフの犬』のような感じです。お酒に対してなんとも思わなくなるまで1年くらいはかかったと思います」

 お酒をやめると同時に始めたのがSNSだ。初日の投稿で「今日から晩酌をやめた!」と宣言。最初の頃はお酒をやめた結果の落ちつかなさをつづることが多かったが、徐々にお酒を飲まない工夫や心身の変化などを記録するようになっていった。コジマさんと同じようにお酒をやめた人の投稿を見たり、SNS上で応援してもらったりするのが支えになったという。

 「カッコいい自分」をイメージしてお酒をやめたコジマさんだが、意外にも暮らしや仕事にさまざまなプラスの影響があったそうだ。