コンテンツにスキップ

新顎類

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
新顎類
Neognathae
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 鳥綱 Aves
階級なし : 新顎類 Neognathae
学名
Neognathae
Pycraft, 1900
シノニム
和名
新顎類
下位分類群

新顎類 (しんがくるい、Neognathae) は、鳥類に属する脊椎動物の一群である。

概要

[編集]

階級新顎上目とすることが多い。新口蓋上目とも訳す[1]

現生鳥類を含む系統である鳥類は、原始的な古顎類と進化的な新顎類に大きく分かれる。古顎類にはダチョウなど地上性・半地上性の数約50種が含まれるだけであり、現生鳥類のほとんど、種数にして約99.5%は新顎類である。

系統と分類

[編集]

上位系統

[編集]

新顎類は古顎類姉妹群である。新顎類と古顎類は、新生代の初期に分岐したとみられる。

下位系統

[編集]

新顎類には35の目(目は分類によって若干変わるが、ここでは分子系統の結果を受けて修正された目で扱う[2])が属する。それらは、キジカモ類 Galloanserae新鳥類 Neoaves に分かれる。キジカモ類にはキジ目とカモ目の2目、新鳥類 Neoaves にはその他の33目が含まれる。

目レベルまでの系統は完全には解けていないが、以下のような系統に分類群が提案されている(ただし landbird は正式な分類群ではない)。これらの系統は、レトロポゾンによる確実な系統か[3]、近年の複数の研究(Hackett 2008[4]; Mayr 2011[5])で支持されている系統である。キジカモ類とアマツバメヨタカ類以外は、分子系統により新たに判明した系統である。

キジカモ類 Galloanserae キジ目 Galliformesカモ目 Anseriformes
新鳥類[6] Neoaves ネッタイチョウ目 Phaethontiformesサケイ目 Pteroclidiformesクイナモドキ目 Mesitornithiformes ハト目 Columbiformesジャノメドリ目 Eurypygiformesツメバケイ目 Opisthocomiformesノガン目 Otidiformesカッコウ目 Cuculiformesツル目 Gruiformesエボシドリ目 Musophagiformesチドリ目 Charadiiformes
  賛鳥類[6] Mirandornithes[7] カイツブリ目 Podicipediformesフラミンゴ目 Phoenicopteriformes
Strisores[5] ヨタカ目 Caprimulgiformesアマツバメ目 Apodiformes
水禽類[6] Aequornithes[5] アビ目 Gaviiformesペンギン目 Sphenisciformesミズナギドリ目 Procellariiformesコウノトリ目 Ciconiiformesペリカン目 Pelecaniformesカツオドリ目 Suliformes
陸鳥類[6] Telluraves ノガンモドキ目 Cariamiformesタカ目 Falconiformesフクロウ目 Strigiformesネズミドリ目 Coliiformesオオブッポウソウ目 Leptosomatiformesキヌバネドリ目 Trogoniformes
  ゲラ・ブッポウソウ類[6] Picocoraciae[5] サイチョウ目 Bucerotiformesキツツキ目 Piciformesブッポウソウ目 Coraciiformes
真ハヤブサ形類[6] Eufalconimorphae[3] ハヤブサ目 Falconiformes
  オウム・スズメ類[6] Psittacopasserae[3] オウム目 Psittaciformesスズメ目 Passeriformes

ただし、これらの系統の間の関係は確定していない。

やや受け入れられている説として、Ericson (2006)[8]やEricson (2008)[9]により、Neoaves は、全現生鳥類の約10%の種を含む Metaves と、約85%の種を含む Coronaves に分けられ、Metaves を2つ、Coronaves を3–4つ程度の大きな系統に分けられた。この系統は Hackett (2008)[4]でも弱くではあるが、ほぼ(ツメバケイ目の位置を除き)支持された。次の系統樹の lineage 1~6 は、Ericson (2008) による仮の系統名である。

キジカモ類

キジ目カモ目

Neoaves
Metaves
lineage 5

Strisoresヨタカ目アマツバメ目

lineage 6

Mirandornithesカイツブリ目フラミンゴ目)、ネッタイチョウ目サケイ目クイナモドキ目ハト目ジャノメドリ目

?

ツメバケイ目

Coronaves
landbirds
lineage 1

ノガンモドキ目Eufalconimorphaeハヤブサ目オウム目スズメ目

lineage 2

タカ目フクロウ目ネズミドリ目オオブッポウソウ目キヌバネドリ目Picocoraciaeサイチョウ目キツツキ目ブッポウソウ目

lineage 3

ノガン目カッコウ目ツル目エボシドリ目Aequornithesアビ目ペンギン目ミズナギドリ目コウノトリ目ペリカン目

lineage 4

チドリ目

しかしこれらの系統には異論もある。Mayr (2011)[5]は、MetavesCoronaves を支持する遺伝子がβフィブリノゲンのみであること、ツメバケイ目の系統位置が定まらないことから、これらの系統を否定した。彼は Noaves 内に5つ(新顎類内に6つ)の系統を認めた。これらを Ericson の系統名で表すと次のようになる。

キジカモ類

Neoaves

landbirds (lineage 1 + 2)。

?

lineage 5(他の系統に含まれるかもしれない)

lineage 3 + 4 と、lineage 6 のうち次の2系統以外(この系統の単系統性は不確実)

?

ジャノメドリ目(他の系統に含まれるかもしれない)

?

ハト目、サケイ目(他の系統に含まれるかもしれない)

分類史

[編集]

現生鳥類が古顎類と新顎類の2つに分かれることを指摘しそれぞれに命名したのは W. P. Pycraft (1900)[10]である。

Bock (1982) は、新顎類のうちペンギン目を、その独自性から、新顎類から分離しペンギン上目 Impennes とした。しかし分子系統からは、ペンギン目は新顎類の内部系統 Aequornithes の一員であり、ペンギン上目は否定される。

1981年、Cracraft が、キジ目カモ目単系統をなすことを示した。そのことは分子系統でも確認され、Sibley et al. (1988)[11]は新顎類をキジカモ類 GalloanseraeNeoaves に分けた。ただし、彼らが得た系統は ((古顎類 + キジカモ類) + Neoaves) であり、新顎類は単系統ではないと考え分類群として認めなかった。

Sibley et al. (1990) では、現在知られている系統と同じ (古顎類 + (キジカモ類 + Neoaves)) という系統が得られた。それに応じ分類も修正され、キジカモ類は Neoaves 内に移された。したがって、この Neoaves は新顎類と同じものである。日本語では定訳はなく、新顎下綱(彼らの分類では下綱に位置する)と呼ばれる。ただし現在、Neoaves という名は、Sibley et al. (1988) での「キジカモ類以外の新顎類」の意味で使われる。

Sibley et al. (1990) は、新顎類を6つの小綱に分けた。そのうち1つはキジカモ小綱だが、残りの5小綱を合わせた群、つまり現在の Neoaves に彼らは分類群を与えなかった。これらの分類は実際の系統を反映しておらず、複数の目からなるブッポウソウ小綱スズメ小綱は単系統ではなかった。

小綱 上目 現在の分類
キジカモ小綱
Galloanserae
キジ上目
Gallomorphae
ホウカンチョウ目キジ目 キジ目
カモ上目 Anserimorphae カモ目 カモ目
ミフウズラ小綱 Turnicae ミフウズラ目 ミフウズラ科
キツツキ小綱 Picae キツツキ目 キツツキ亜目
ブッポウソウ小綱
Coraciae
キリハシ上目 Galbulimorphae キリハシ目 キリハシ亜目
サイチョウ上目
Bucerotimorphae
サイチョウ目ヤツガシラ目 サイチョウ目
ブッポウソウ上目
Coraciimorphae
キヌバネドリ目ブッポウソウ目 キヌバネドリ目ブッポウソウ目
ネズミドリ小綱 Coliae ネズミドリ目 ネズミドリ目
スズメ小綱
Passerae
カッコウ上目 Cuculimorphae カッコウ目 カッコウ目ツメバケイ目
オウム上目 Psittacimorphae オウム目 オウム目
アマツバメ上目
Apodimorphae
アマツバメ目ハチドリ目 ズクヨタカ科を除くアマツバメ目
フクロウ上目
Strigimorphae
エボシドリ目フクロウ目 エボシドリ目フクロウ目ヨタカ目ズクヨタカ科
スズメ上目
Passerimorphae
ハト目ツル目コウノトリ目スズメ目 ハト目ジャノメドリ目ノガン目ツル目ノガンモドキ目ジャノメドリ目ツル目サケイ目チドリ目タカ目ハヤブサ目カイツブリ目ネッタイチョウ目カツオドリ目ペリカン目フラミンゴ目タカ目コウノトリ目ペンギン目アビ目ミズナギドリ目スズメ目

出典

[編集]
  1. ^ 森岡浩之 (2006), “鳥綱”, in 松井正文, 脊椎動物の多様性と系統, バイオディバーシティ・シリーズ 7, 裳華房, ISBN 4-7853-5830-0 
  2. ^ Gill, F.; Donsker, D., eds. (2012), “Sugarbirds, starlings, thrushes”, IOC World Bird Names, version 2.11, http://www.worldbirdnames.org/n-sugarbirds.html 
  3. ^ a b c Suh, Alexander; et al. (2011), “Mesozoic retroposons reveal parrots as the closest living relatives of passerine birds”, Nature Communications 2 (8), doi:10.1038/ncomms1448, http://www.nature.com/ncomms/journal/v2/n8/full/ncomms1448.html 
  4. ^ a b Hackett, S.J.; et al. (2008), “A Phylogenomic Study of Birds Reveals Their Evolutionary History”, Science 320: 1763-1768 
  5. ^ a b c d e Matr, Gerald (2011), “Metaves, Mirandornithes, Strisores and other novelties – a critical review of the higher-level phylogeny of neornithine birds”, J. Zool. Syst. Evol. Res. 49 (1): 58–76, doi:10.1111/j.1439-0469.2010.00586.x 
  6. ^ a b c d e f g パーカー, スティーヴ 著、日暮雅道・中川泉 訳、養老孟司 日本語版監修 編 『生物の進化大事典』三省堂、2020年6月9日、371頁。ISBN 978-4385162409
  7. ^ Sangster, G. (2005), “A name for the flamingo-grebe clade”, Ibis 147: 612–615, doi:10.1111/j.1474-919x.2005.00432.x 
  8. ^ Ericson, Per G.P.; et al. (2006), “Diversification of Neoaves: integration of molecular sequence data and fossils”, Biol. Lett. 2: 543-547, http://www.cajsalisa.net/pdf/neoaves.pdf 
  9. ^ Ericson, Per G.P. (2008), “Current perspectives on the evolution of birds”, Contributions to Zoology 77 (2): 109-116 
  10. ^ Pycraft, W.P. (1900), “On the morphology and phylogeny of the Palaeognathae (Ratitae and Crypturi) and Neognathae (Carinatae)”, Trans. Zool. Sot. Lond. 15: 149-290 
  11. ^ Sibley, Charles G.; Ahlquist, Jon E.; Monroe Jr., Burt L. (1988), “A classification of the living birds of the world based on DNA-DNA hybridization studies”, Auk 105 (3): 409–423, http://elibrary.unm.edu/sora/Auk/v105n03/p0409-p0423.pdf