消費者がある製品やブランドに対し、どの程度買おうと思っているかの度合いを表す「購入意向」の後編。マーケターならぜひ手に入れたいデータだ。しかし、「買わない」と答えたのに実際は買う人も数多い。購入意向のデータを使ってうまく行動予測ができないのはなぜなのか。

クルマなんか買うつもりはなかったんだが、結局買ってしまったよ(画像提供:Vyacheslavikus/Shutterstock.com)
クルマなんか買うつもりはなかったんだが、結局買ってしまったよ(画像提供:Vyacheslavikus/Shutterstock.com)
▼前回はこちら 「購入意向」の落とし穴 過去の利用経験で未来を測る危うさ

「買わない」と言った人のほうが多く買ったのはなぜ?

 購入意向や推奨意向のような指標と共にデータが提示されると、我々はその言葉通りの意味にデータを解釈します。しかし、指標の“響き”と、実際にその指標が測定している内容が異なることは少なくありません(Romaniuk, 2023)。Sharp(2017)がこの問題を象徴する2つの好例を示しているので、簡単に紹介したいと思います。

(1)購入意向がある人と購入意向のない人、どちらからの売り上げが大きいと思いますか?

(2)成長しているブランドと衰退しているブランド、購入意向が高いのはどちらでしょうか?

 まず「『買わない』と言って買う人」と「『買う』と言って本当に買う人」、どちらの売り上げが大きいでしょうか。額面通りに受け取れば、購入意向がある人からの売り上げのほうが大きい気がしますよね。しかし、購買する人の大半は、事前の意向を示さない傾向があります(Wright & MacRae, 2007)。

 米国である年の国勢調査のフォローアップ調査を行ったところ、翌年に新車を買う意向があると回答した世帯の実際の購買率は40%、購入意向がないと回答した世帯の購買率は7%でした。この割合自体は特におかしなところはないでしょう。まあそんなものだろうという数字です。しかし、実際の売り上げは購入意向がない世帯からのほうが大きかったのです。これは当時のマーケターを相当混乱させたそうです(Sharp, 2017)。なぜこのようなことが起こるのか分かりますか。

※Sharp(2017)を参考に筆者作成
※Sharp(2017)を参考に筆者作成

 実はほとんどの世帯(90%以上)が、購入意向のないグループだったからです(Theil & Kosobud, 1968)。購入意向には「過去の購買傾向」が強く影響するもので、必ずしも将来の購買を担保しません。しかし、人は事前の意向がなくても買うときは買います。そうなると後は絶対数の問題です。

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