自ら試行錯誤する中で気付いた、
取締役会を改革する必要性
経済環境や市場ニーズが目まぐるしく変わる今、企業経営者に求められる視点や取り組みとは、どのようなものでしょうか。
森川2015年に策定されたコーポレートガバナンス・コードでは、企業の持続的成長と中長期的な企業価値向上を目的とした様々な取り組みが推奨されています。「社外役員を増やす」「ROE(自己資本利益率)を8%以上にする」といったことは、今求められる取り組みの代表例だと思います。
ただ、取り組みを意義あるものにするためには、「何のために行うのか」を理解することが先決です。アバントグループも、自ら実践する中で様々な試行錯誤を繰り返しながら、取り組みの本質の理解に努めてきました。
現在、私たちは次のように考えています。例えば、社外役員を増やすのは意思決定権を内部で独占しないためです。また、役員が内部だけだとリスクを取らなくなるほか、社長の間違いを指摘しにくくなり、それが持続的成長の足かせになります。そのようなことを防ぐのが目的です。
また、ROE8%以上を目指すことの要点は、そもそも「成果をROEで計る」という点にあると私は考えています。分かりやすい指標を用いることで社外の役員や投資家との対話が活性化され、ガバナンスが強化されるのです。
そして、このようなことを実践する上での“一丁目一番地”となるのが、「取締役会」の実効性を高めることだという考えに至りました。
アバントグループは「企業価値の向上」を重要ミッションに掲げています。このミッションと、取締役会の改革の関連性について教えてください。
森川取締役会は、経営意思決定に関する様々な議論が行われる重要な場です。ここでの議論は、最終的に企業価値の向上に資するべきものですが、実際は様々な非効率がそれを阻んでいます。
例えば、コーポレートガバナンス・コードに沿って社外役員を増やしていくと、意思決定権のバランス化が図れる一方で、会議体の運営負荷は増大します。所属する業界も出身国も異なる社外役員に、自社の事業ミッションの本質を説明するのは簡単ではないでしょう。情報共有のスピードも社内外で差が出るため、会議中に同じことを繰り返し説明するケースが多く発生します。
中野私は社外取締役の立場ですが、情報提供が会議直前だと、深く理解できないまま会議が始まってしまい、突っ込んだ議論ができません。また、議題が投資や企業提携などにかかわる場合、話し合いが1度の会議では終わらず2度、3度にわたります。前の会議で行われた議論の内容を振り返るには、事務局に問い合わせたり、議事録ファイルを送付してもらったりする手間が生じてしまいます。
森川中野先生が指摘したようなことが、かつてのアバントグループの取締役会で起こっていました。ほかの多くの企業も同様ではないでしょうか。これにより、取締役間で情報格差が生まれてしまうことは、大きな課題だと考えていました。
「企業価値向上に向けた議論」に
時間を割けるようにするには
この課題は、どうすれば解決できるのでしょうか。
森川まずは現状の非効率やムダを取り除き、企業価値向上に資する議論に取締役会の時間を充てられるようにする必要があります。アバントグループの1社であるディーバでは、そのための機能を網羅的に備えたツールとして「TRINITY BOARD」を提供しています。
これは、取締役会の準備・開催から当日の運営、事後の情報管理まで、必要な機能を網羅的に備えたクラウドツールです。具体的には、各種ドキュメントや役員人財情報の管理、自社ニュースの自動共有機能のほか、経営ダッシュボード機能も搭載。また、開催当日にはタイマーを画面表示して議事を進行することも可能です。さらに、議題ごとにかけた時間のログや議事録などを保管できるため、後から振り返り、改善に役立てることもできます。
TRINITY BOARDを使うことで、アバントグループの取締役会は大きく変わりました。以前は規程の承認や定型的な報告に時間を割いてしまっていましたが、現在は、各事業の価値を算出し、これをいかに上げていくかという戦略の立案や、進捗をモニタリングするための指標に関する議論、投資家との対話に基づく資本政策の検討など、企業価値向上のための議論に多くの時間を割けるようになっています。
TRINITY BOARDを使って当日の議題や参加者、過去の議論の経緯などを事前に確認できれば、取締役間の情報格差を埋めることができます。会議運営の効率化も図れるのではないでしょうか。
森川その通りです(図)。実際、取締役会は最も労働単価の高い人の集まりなので、会議の効率を意識することには大きなコストインパクトがあります。
ただ、ここで勘違いしてほしくないのは、会議の効率化がTRINITY BOARD活用の目的ではないということです。目的はあくまで「企業価値向上に向けた議論を行う」ことであり、非効率の解消はそのための時間を創出する手段に過ぎません。
図 TRINITY BOARDの導入効果イメージ
アバントグループは、自らTRINITY BOARDを活用することで大きな効果につなげている。従来発生していた多くの非効率やムダを取り除くことで、その時間を企業価値向上に資する議論に充てている
中野森川CEOの言う通りですね。もちろん、議論を深める観点でもTRINITY BOARDが大いに役立っています。例えば、役員人財情報のデータベースを見れば、今話している人が誰なのかをすぐ確認できます。社外取締役の立場では、参加者全員を把握するのがなかなか難しいのですが、TRINITY BOARDがあればその問題も解決できます。人物を把握して話を聞くことで、より深い議論が行えていると思います。
システム連携で、
常に最新の実績データを取締役会で表示
TRINITY BOARDの、競合製品との差別化ポイントはどこにありますか。
森川大きいのは当グループが保有するシステム群との連携です。現在社内で実証中ですが、東証上場の時価総額上位200社の約半数、累計約1100社に利用されている連結会計システム「DivaSystem LCA」との連携も予定しています。このシステムは、連結決算業務に必要なデータの収集や連結処理、レポーティング、決算開示までの一連の業務をカバーするもの。DivaSystem LCAと連携することで、グループ全体の価値評価はもちろん、グループを構成する事業会社それぞれの価値もTRINITY BOARD上で表示できるようになります。
また今後は、IR関連の開示書類や事例情報を検索・表示できる「開示ネット」との連携も検討していきます。これが実現できれば、他社が開示している情報と自社の情報を並べて表示しながら、より深い議論ができるようになります。
事業活動の実績など、様々なデータを取締役会向けに簡単に提供できるのですね。
中野ポイントは、事業会社ごとの実績データまで見られる点だと思います。そのデータは常に最新のものなので、アップデートされた情報に基づいた議論が行えます。個人的にも、取締役会での議論の質の向上に役立っていると感じます。
経営者が自ら、
自社の価値を「値決め」する感覚を養う
TRINITY BOARDの提供を通じて、実現したい未来像をお聞かせください。
森川大切なのは、経営層が企業価値にかかわる情報を日常的に扱うことで、自社の価値を「値決め」する感覚を養うことです。金融機関や投資家などの外部の人に値決めされるのではなく、自ら決める。株価や競合他社の情報、ファイナンスに関する力を備えるためのツールとして、TRINITY BOARDを役立てていただきたいと思います。
中野現在の日本企業の多くにとって、自社の価値を決めるタイミングは「事業を売ってくれ」といわれた場合くらいだと思います。しかも、外部の証券会社のアドバイザーが決めるので、いわれるままに値決めされてしまうことが多い。そうではなく、経営層がファイナンスリテラシーを高めて、「どのくらいで売るべきか」を判断できるようになることは、企業のあるべき姿を描いていく上でも重要だと感じます。
森川現状追認ではなく5年先、10年先、時には100年先の企業の姿を見据えて、組織を導くのが取締役会の理想の姿です。それに向けた第一歩を踏み出すきっかけとして、TRINITY BOARDを活用してほしいですね。取締役会が、企業価値を持続的に高められる議論の場となることを期待しています。
株式会社アバントグループ
https://www.avantgroup.com