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「非自由主義的民主主義」の版間の差分

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'''非自由主義的民主主義'''(ひじゆうしゅぎてきみんしゅしゅぎ、{{lang-en-short|illiberal democracy}})とは、'''擬似民主主義'''(pseudo democracy)、'''部分的民主主義'''(partial democracy)、'''低度民主主義'''(low intensity democracy)、'''空の民主主義'''(empty democracy)、'''組み合わせ体制'''(hybrid regime)、'''権限委譲民主主義'''(delegative democracy)などとも呼ばれ<ref>Juan Carlos Calleros, Calleros-Alarcó,The Unifinished Transition to Democracy in Latin America, Routledge, 2009, p1</ref>、政治体の1つであり、そこでは[[選挙]]は実施される、市民は[[自由権]]の不足によって実際の権力者の活動に関する知識から切り離されており、「[[:en:open society|開かれた社会]]」ではなく、実質的には[[権威主義]]的政治体の1つともされる。この状態は、制度上は政治権力を制限しているが、[[知る権利]]など市民の政府への自由は無視されており、自由主義の適切な法的な構築された枠組みは存在しない
'''非自由主義的民主主義'''(ひじゆうしゅぎてきみんしゅしゅぎ、{{lang-en-short|illiberal democracy}})とは、'''擬似民主主義'''(pseudo democracy)、'''部分的民主主義'''(partial democracy)、'''低度民主主義'''(low intensity democracy)、'''空の民主主義'''(empty democracy)、'''組み合わせ体制'''(hybrid regime)、'''権限委譲民主主義'''(delegative democracy)などとも呼ばれ<ref>Juan Carlos Calleros, Calleros-Alarcó,The Unifinished Transition to Democracy in Latin America, Routledge, 2009, p1</ref>、制度的には[[民主制]]が、実質的には[[自由]]されている[[政治体制]]である


そこでは[[選挙]]は実施されるが、市民は[[自由権]]の不足によって実際の権力者の活動に関する知識から切り離されており、「[[開かれた社会]]」ではなく、実質的には[[権威主義]]的政治体制の1つともされる。この状態は、制度上は政治権力を制限しているが、[[言論の自由]]や[[集会の自由]]、[[知る権利]]など[[市民]]の政府への自由は無視されており、[[自由主義]]の[[立憲主義|適切な法的な構築された枠組み]]はほぼ存在せず、[[法治主義]]はあっても[[法の支配]]がない状況となっている。
「非自由主義的民主主義」(''illiberal'' democracy)の用語は、「[[自由民主主義]]」(''liberal'' democracy)からの造語で、[[ファリード・ザカリア]]によって使用され、通常は雑誌[[フォーリン・アフェアーズ]]の1997年の記事が参照される<ref>[http://www.foreignaffairs.org/19971101faessay3809/fareed-zakaria/the-rise-of-illiberal-democracy.html The Rise of Illiberal Democracy], ''Foreign Affairs'', November/December 1997.</ref>。日本では「非自由民主主義」、「リベラリズムなき民主主義」、「似非民主主義」など多数の日本語訳が存在する。


また往々にして極度に[[中央集権]]的であり、[[権力の分立]]も([[三権分立]]と[[地方自治]]の双方で)乏しい。このため[[行政国家]]化する傾向が強い。

==実例==
こうした国家の例としては[[シンガポール]]が挙げられることが多い。同国では「[[建国の父]]」とされる[[リー・クアンユー]][[シンガポールの首相|首相]](のち首相は[[ゴー・チョクトン]]、クアンユーの息子の[[リー・シェンロン|シェンロン]]に代わる)の強力な[[開発独裁]]的[[リーダーシップ]]の下、[[人民行動党]]による[[ヘゲモニー政党制]]と[[警察国家]]体制が敷かれ、[[野党]]は存在を許されてはきたが[[国会 (シンガポール)|国会]]の総選挙ではほとんど議席を獲得できない状況が2013年現在まで続いている。例えば[[選挙制度]]が[[与党]](つまり人民行動党)に有利であるため、{{仮リンク|2006年の総選挙|en|Singaporean general election, 2006}}([[無投票当選]]となった選挙区も多かった)では野党勢力が30%を超える得票率を稼いだにもかかわらず、わずか2議席にとどまった<ref>[http://www.singapore-elections.com/parl-2006-ge/h General Election 2006]</ref>。

また[[フランス]]では自由主義者から、[[ボナパルティズム]]([[ナポレオン・ボナパルト]]の統治である[[フランス第一帝政|第一帝政]]も含むが、むしろ[[ナポレオン3世]]の[[フランス第二帝政|第二帝政]]を暗に示す場合が多い)も民主主義を標榜しながら結局は政治的自由を抑圧し[[独裁政治|独裁]]を志向する権威主義体制とみなされていた。一例を挙げると第二帝政においては{{仮リンク|官選候補|fr|Candidat officiel}}制度が復活・採用され、知事(中央政府による任命)は[[立法院 (フランス)|立法院]]の選挙において官選候補に様々な優遇を与える一方、非官選候補には様々な妨害を加えるようになった<ref name="鹿島(2004)144">[[#鹿島(2004)|鹿島(2004)]] p.144</ref><ref name="高村(2004)85-86">[[#高村(2004)|高村(2004)]] p.85-86</ref><ref name="松井(1997)46">[[#松井(1997)|松井(1997)]] p.46</ref>。

==用語として==
「非自由主義的民主主義」(''illiberal'' democracy)の用語は、「[[自由民主主義]]」(''liberal'' democracy)からの造語で、[[ファリード・ザカリア]]によって使用され、通常は雑誌[[フォーリン・アフェアーズ]]の1997年の記事が参照される<ref>[http://www.foreignaffairs.org/19971101faessay3809/fareed-zakaria/the-rise-of-illiberal-democracy.html The Rise of Illiberal Democracy], ''Foreign Affairs'', November/December 1997.</ref>。日本では「非自由民主主義」、「リベラリズムなき民主主義」、「似非(えせ)民主主義」など多数の日本語訳が存在する。
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== 概要 ==
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== 参照 ==
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*Bell, Daniel, Brown, David & Jayasuriya, Kanishka (1995) ''Towards Illiberal Democracy in Pacific Asia'', St. Martin's Press, ISBN 978-0333613993.
*Bell, Daniel, Brown, David & Jayasuriya, Kanishka (1995) ''Towards Illiberal Democracy in Pacific Asia'', St. Martin's Press, ISBN 978-0333613993.
*Thomas, Nick & Thomas, Nicholas. (1999) ''Democracy Denied: Identity, Civil Society, and Illiberal Democracy in Hong Kong'', Ashgate, ISBN 978-1840147605.
*Thomas, Nick & Thomas, Nicholas. (1999) ''Democracy Denied: Identity, Civil Society, and Illiberal Democracy in Hong Kong'', Ashgate, ISBN 978-1840147605.
*Zakaria, Fareed. (2007) ''The Future of Freedom: Illiberal Democracy at Home and Abroad'', W. W. Norton & Company, ISBN 978-0393331523.
*[[ファリード・ザカリア]] (2007) ''The Future of Freedom: Illiberal Democracy at Home and Abroad'', W. W. Norton & Company, ISBN 978-0393331523.
*{{Cite book|和書|author=鹿島茂|authorlink=鹿島茂|date=2004年(平成16年)|title=怪帝ナポレオンIII世 <small>第二帝政全史</small>|publisher=[[講談社]]|isbn=978-4062125901|ref=鹿島(2004)}}
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*{{Cite book|和書|author=松井道昭|authorlink=松井道昭|date=1997年(平成9年)|title=フランス第二帝政下のパリ都市改造|publisher=[[日本経済評論社]]|isbn=978-4818809161|ref=松井(1997)}}
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==関連項目==
== 関連項目 ==
*[[議会制民主主義]]
* [[ブルジョア民主主義]]
*[[汚職]]
* [[人民民主主義]]
* [[党国体制]]
*[[:en:Totalitarian democracy|全体主義的民主主義]]
*[[一党優位政党制]]
* [[一党優位政党制]]
* [[衛星政党]]
*[[国家の内部における国家]]
* [[議会制民主主義]]
* [[自由主義的専制]]
* [[汚職]]
* [[国家の内部における国家]]
* {{ill2|ハイブリッド体制|en|Hybrid regime}} ‐ 英語:Hybrid regime。民主主義への移行期などに見られる民主主義と別の体制が組み合わさってできる政治体制。


== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
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2023年12月15日 (金) 01:31時点における最新版

非自由主義的民主主義(ひじゆうしゅぎてきみんしゅしゅぎ、: illiberal democracy)とは、擬似民主主義(pseudo democracy)、部分的民主主義(partial democracy)、低度民主主義(low intensity democracy)、空の民主主義(empty democracy)、組み合わせ体制(hybrid regime)、権限委譲民主主義(delegative democracy)などとも呼ばれ[1]、制度的には民主制だが、実質的には自由が制限されている政治体制である。

そこでは選挙は実施されるが、市民は自由権の不足によって実際の権力者の活動に関する知識から切り離されており、「開かれた社会」ではなく、実質的には権威主義的政治体制の1つともされる。この状態は、制度上は政治権力を制限しているが、言論の自由集会の自由知る権利など市民の政府への自由は無視されており、自由主義適切な法的な構築された枠組みはほぼ存在せず、法治主義はあっても法の支配がない状況となっている。

また往々にして極度に中央集権的であり、権力の分立も(三権分立地方自治の双方で)乏しい。このため行政国家化する傾向が強い。

実例

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こうした国家の例としてはシンガポールが挙げられることが多い。同国では「建国の父」とされるリー・クアンユー首相(のち首相はゴー・チョクトン、クアンユーの息子のシェンロンに代わる)の強力な開発独裁リーダーシップの下、人民行動党によるヘゲモニー政党制警察国家体制が敷かれ、野党は存在を許されてはきたが国会の総選挙ではほとんど議席を獲得できない状況が2013年現在まで続いている。例えば選挙制度与党(つまり人民行動党)に有利であるため、2006年の総選挙英語版無投票当選となった選挙区も多かった)では野党勢力が30%を超える得票率を稼いだにもかかわらず、わずか2議席にとどまった[2]

またフランスでは自由主義者から、ボナパルティズムナポレオン・ボナパルトの統治である第一帝政も含むが、むしろナポレオン3世第二帝政を暗に示す場合が多い)も民主主義を標榜しながら結局は政治的自由を抑圧し独裁を志向する権威主義体制とみなされていた。一例を挙げると第二帝政においては官選候補フランス語版制度が復活・採用され、知事(中央政府による任命)は立法院の選挙において官選候補に様々な優遇を与える一方、非官選候補には様々な妨害を加えるようになった[3][4][5]

用語として

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「非自由主義的民主主義」(illiberal democracy)の用語は、「自由民主主義」(liberal democracy)からの造語で、ファリード・ザカリアによって使用され、通常は雑誌フォーリン・アフェアーズの1997年の記事が参照される[6]。日本では「非自由民主主義」、「リベラリズムなき民主主義」、「似非(えせ)民主主義」など多数の日本語訳が存在する。

参照

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  1. ^ Juan Carlos Calleros, Calleros-Alarcó,The Unifinished Transition to Democracy in Latin America, Routledge, 2009, p1
  2. ^ General Election 2006
  3. ^ 鹿島(2004) p.144
  4. ^ 高村(2004) p.85-86
  5. ^ 松井(1997) p.46
  6. ^ The Rise of Illiberal Democracy, Foreign Affairs, November/December 1997.

出典

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  • Bell, Daniel, Brown, David & Jayasuriya, Kanishka (1995) Towards Illiberal Democracy in Pacific Asia, St. Martin's Press, ISBN 978-0333613993.
  • Thomas, Nick & Thomas, Nicholas. (1999) Democracy Denied: Identity, Civil Society, and Illiberal Democracy in Hong Kong, Ashgate, ISBN 978-1840147605.
  • ファリード・ザカリア (2007) The Future of Freedom: Illiberal Democracy at Home and Abroad, W. W. Norton & Company, ISBN 978-0393331523.
  • 鹿島茂『怪帝ナポレオンIII世 第二帝政全史講談社、2004年(平成16年)。ISBN 978-4062125901 
  • 高村忠成『ナポレオン3世とフランス第二帝政』北樹出版、2004年(平成16年)。ISBN 978-4893849656 
  • 松井道昭『フランス第二帝政下のパリ都市改造』日本経済評論社、1997年(平成9年)。ISBN 978-4818809161 

関連項目

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外部リンク

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