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 生成AI(人工知能)を活用したシステム内製に取り組む動きは、住友ゴム工業やTOPPANホールディングスといった長い歴史を持つ大企業でも進んでいる。

プログラミング専業でない人に特に有効

 住友ゴム工業は、「ダンロップ」ブランドを展開し、タイヤやスポーツ用品、制振ダンパーなどを製造する。同社は生成AIの導入に向け、様々な生成AIサービスの評価を進めている。生成AIに注力するのは、「プログラミングで昔苦労したから、いの一番に入れないとあかん」(同社の角田昌也研究開発本部研究第一部長)と考えたためだという。

 同社では、製品のシミュレーションの効率化や車載ソフトウエアの開発などのために社員がプログラミングを行っている。こうした業務に携わり自分でプログラムを組める人などを、研究開発本部や経営企画部、スポーツ事業部など幅広い部署から20人程度集め、生成AIの評価メンバーとした。2023年6月にチームを立ち上げ、同年9月に米Google(グーグル)の開発支援サービス「Duet AI for developers(以下、Duet AI)」の利用を始めた。

 Duet AIを試した結果について、角田部長は「効果は人によって差がある」と語る。すらすらとコードを書ける上級者にはあまり効果がないが、中~初級者には効果的だとの感触を得ている。「エラーメッセージをいちいち検索する手間を省ける点」や「書いているプログラムを前提として質問に答えてくれる点」などが便利だとする。

生成AIによるプログラム生成を検証する様子
生成AIによるプログラム生成を検証する様子
(写真:住友ゴム工業)
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 特定のプログラミング言語が得意な人が、別の言語によるプログラムを必要とするときにも便利だという。得意な言語でいったんプログラムを書き、Duet AIのチャットインターフェースを利用したりプログラミング用テキストエディター「Visual Studio Code(VS Code)」上でDuet AIの機能を呼び出したりして、別の言語に変換するといった使い方ができる。

 言語を変換するニーズはほかにもある。例えば、他部署にコードを渡す際には、ライセンスが必要な言語から必要でない言語に変換することで、ライセンスを気にせずに済む。また、特定の言語にしか対応していないシミュレーションソフトを使う場合にも有用だという。

 角田部長は「我々の部署の主な仕事はシミュレーション。プログラミングはそれを効率化するために必要だった」と振り返る。ソフトウエア開発が本業ではないため、プログラミングには苦労したという。そうした人には特に効果が高いと実感している。

生成AIがもたらした「3つ目の時代」

 角田部長は「1990年代は人とやり取りしなければ、システム内製の能力を身に付けるのが難しかった。プログラミングを学ぶため講習会に行ったり、分からないことを誰かに聞いたり、言語のライセンス販売元から有償サポートを受けてスキルアップを目指したりした。FAXでやり取りすることもあった」と振り返る。

 その後、インターネット検索が普及し、調べながら学べる時代が到来した。そして現在、生成AIにチャットで聞けばすぐ返答がくるようになった。それだけでなくコードの内容も直してくれる。角田部長は「2023年から3つ目の時代が来た」と感慨深げに語る。

 住友ゴム工業は、他の技術やサービスの導入も視野に入れている。現在、グーグルの「PaLM 2」や米OpenAI(オープンAI)の「GPT-4」といった大規模言語モデル(LLM)、そしてグーグルの新しいLLMである「Gemini」の評価を進めているという。米GitHub(ギットハブ)の「GitHub Copilot」や米Microsoft(マイクロソフト)の「Copilot」といったサービスの検証も予定している。

 「今後は生成AIの基盤モデルを自社向けに改良する技術が重要になってくる」と角田部長は指摘する。プロンプトエンジニアリング、生成AIをインターネット検索と組み合わせる検索拡張生成(RAG)、用途に合わせたモデルのファインチューニングなどだ。

 今後は、こうしたカスタマイズをシステム部門やベンダーに丸投げするのではなく、現場で主導することが重要になる。いわば生成AIのシステム内製だ。角田部長は「誰かに頼っていたらあかん」と意気込みを語る。